断捨離中に見つけた原稿用紙。
子どもが高校1年の時に書いた現代文の発展学習の課題でした。
芥川龍之介の『羅生門』の続き、下人の行方を創作するというもの。
よく書けているし、(親バカですが…)
捨ててしまうのも、ちょっともったいなくて
ブログに載せて良いとの許可も得たので、読んでやってみてください。
『夜が明ける前に・・・』
「女、そこで何をしている。」
下人の問いに、村はずれの井戸の前でうつむいて座っていた女は顔を上げた。よく見ると、腕に赤子を抱いている。若い女は言った。
「この飢餓のせいで村は荒れ、我が子にろくに食べさせてやることもできず、困り果てて座りこんでいたのです。何かご用ですか。」
下人はいいや、と答え、先ほど老婆からはぎとった着物を背中に隠した。月照かりにさらされ、下人の目に女の姿は不気味に映った。やせこけた頬がかすかに動き、虫の鳴くような声が聞こえた。
「今だからお話ししますが、実は私、金目のもの欲しさに物を盗もうとしたことがあるのです。そうしなければ、この子を養えなかったのです。」
下人は、自分と似た境遇を語る女に興味を覚えた。
「それで、どうなった。」
女は静かに首をふった。
「結局、物を盗むことはできませんでした。もし私が物を盗み、その金でこの子を養うことができたとして、この子は喜ぶのでしょうか。いいえ、もしそうだとしても、私はずっとそのことを後悔するはずなのです。」
女は話し終えると、優しく自分の赤子を見つめた。その表情は、下人の心にわずかな迷いを生んだ。
下人はたった今、悪人になることを決意したのだ。そうしなければ生きてゆけないのだから、今さら後戻りなどできないのだ。
下人は背に隠していた着物を、乱暴に女の前につき出した。
「いくらになるかはわからん。だが、その子を死なすようなことはするな。」
ぼんやりとしている女に着物を押しつけると、下人はすばやく夜の闇に向かって走り出した。自分はまだ人間なのだと、下人は心の中で苦笑した。
もうじき、夜が明ける。
- 完 -
如何でしたか?
最後まで読んでいただきありがとうございました。
子どもは、学生時代いろいろあり、人間不信や自己否定等々…
今、長いトンネルの中を試行錯誤しています。
母は、この文章が書けるあなたを信じて
夜が明けるのを願っています。